川崎医科大学 李 順姫
(平成24年度 受賞者)
「衛生学との出会いに感謝」

 この度は平成24年度公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜りたいへん光栄に存じます。この場を借りまして、関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
 私は平成23年4月川崎医科大学衛生学教室に着任し、同時に、私の衛生学領域における研究活動がはじまりました。大きな研究内容は「空気環境中に含まれる微細粉塵の吸引による健康影響」であります。ここで少し背景を紹介しますと、粉塵曝露で生じる塵肺(粉塵や微粒子を長期間吸引した結果起きる肺疾患の総称)には、代表的なものとしてアスベストに起因する肺癌および中皮腫、砕石場などで生じる珪酸(シリカ)粉塵に起因する珪肺症などがあります。
 私は中でも珪肺症患者において、多発性硬化症、リウマチ(Caplan症候群)、強皮症などの「自己免疫疾患」を高頻度で合併することに着目し『塵肺』と『自己免疫疾患』という一見無関係にみえる両疾患間の関連性を探索しています。興味深いことに、形成外科手術などで、珪酸を構造単位としてもつシリコン([SiO2-O-]n)を体内に留置された患者でも、珪肺症と同様に自己免疫疾患を起こすケースも報告されおり、これらの事実は珪酸と自己免疫疾患発症の相関が高いことを示しています。幸いにも労働衛生の改善、啓発活動の浸透とともにマスク着用など予防策が徹底してきていることで珪肺症例は減少しています。しかし、それ以外の原因不明な自己免疫疾患に苦しんでいる方々は多くいらっしゃいます。自己免疫疾患の致死率は高くないものの、治療に難渋する例も多く、長期間、十分な改善を伴わない症状に苦しむ症例も少なくありません。原因や病態が不明なところも多い自己免疫疾患の発症機構の解明に、本研究助成で支援して頂いている「珪酸曝露による免疫動態の解析」が原因、或いは予防・治療の端緒となれるものと確信しています。
 「衛生学」は読んで字のごとく「生を衛る(まもる)学問」。このような素晴らしい学問に出会えたことに感謝し、この研究で一日でも早く、一人でも多くの人の苦痛を和らげるのに役立てればと願う毎日です。
[平成24年11月6日掲載]